自己破産をすると退職金はどうなる?8分の1を支払う必要があるケースも
自己破産をすると、一定の財産は破産管財人に引き継がれ、換価(現金化)されたうえで債権者へ公平に配当されます。
では、勤務先に退職金制度がある場合、将来受け取る予定の退職金はどのように扱われるのでしょうか。
じつは、自己破産をしても退職金の全額を失うわけではありません。福岡地方裁判所の運用では、退職金の大部分は手元に残すことができ、管財人に引き継ぐ必要があるのは一部にとどまります。
この記事では、自己破産における退職金の扱いについて、8分の1ルールや例外的なケース、中小企業退職金共済(中退共)や確定拠出年金(DC)の取扱いなどを分かりやすく解説します。
1. 退職金が間近に迫っていない場合
2. 退職が近い場合は4分の1になることもある
3. すでに退職金を受け取っている場合
4. 退職金はいつの時点の金額で判断されるのか
5. なぜ「8分の1」になるのか
6. 退職金の8分の1は実際にどのように支払うのか
7. 中退共(中小企業退職金共済)の退職金はどうなる?
8. 小規模企業共済も全額保護される
9. 確定拠出年金(DC)はどう扱われる?
10. 退職金に関する事例
11. まとめ
退職金が間近に迫っていない場合
自己破産をした場合、一定額以上の財産は破産財団に組み入れられ、破産管財人によって換価・配当されます。
退職金についても財産の一つとして扱われますが、まだ退職していない場合には、将来受け取る予定の退職金のうち一定割合のみが財産と評価されます。
福岡地方裁判所の運用では、退職が間近に迫っていない場合、退職金見込額の8分の1が破産財団に組み入れられます。
そのため、退職金見込額が800万円であれば、そのうち100万円(8分の1)が自己破産手続上の財産として扱われることになります。
退職が近い場合は4分の1になることもある
退職が間近に迫っている場合には、退職金の評価方法が変わります。
福岡地方裁判所の運用では、退職時期が近い場合には、退職金見込額の4分の1を破産財団に組み入れる必要があります。
つまり、退職まで十分な期間がある場合は8分の1、退職が近い場合は4分の1という取扱いになります。
どちらに該当するかは個別事情によって判断されます。
すでに退職金を受け取っている場合
自己破産の開始決定時点で、すでに退職金を受け取っている場合は取扱いが異なります。
この場合、将来の退職金請求権ではなく、すでに現金として保有している財産となるため、原則として全額が破産財団に組み入れられます。
そのため、退職金を受け取った後に自己破産を申し立てる場合には、特に注意が必要です。
退職金はいつの時点の金額で判断されるのか
退職金の評価額は、将来定年まで勤務した場合の金額を基準にするわけではありません。
自己破産では、裁判所が破産手続開始決定をした時点を基準として、その時点で退職したと仮定した場合の退職金見込額によって評価されます。
したがって、「定年まで勤めた場合の退職金額」が基準になるわけではありません。
なぜ「8分の1」になるのか
退職金の取扱いは、法律上の「差押禁止財産」の考え方と深く関係しています。
一般的に、法律で差押えが禁止されている財産については、自己破産においても破産管財人へ引き継ぐ必要がない場合が多くあります。
退職金については、民事執行法上、原則として4分の3が差押禁止とされており、差押えが認められるのは4分の1までです。
これは、退職金が給与の後払いという性質を持つためです。
給与についても、原則として差押えができるのは4分の1まで(手取り額が月額44万円を超える場合は、「手取り額から33万円を差し引いた額」)とされています。
さらに、自己破産では給与については原則としてすべてが管財人に引き継がれません。
こうした事情を考慮し、福岡地方裁判所では、退職金についても差押禁止割合である4分の3よりさらに広く保護し、退職金見込額の8分の7を管財人に引き継がなくてよい「自由財産」として扱い、残りの8分の1のみを「破産財団」として管財人に引き継ぐ運用がされています。
退職金の8分の1は実際にどのように支払うのか
自己破産を申し立てた時点では、通常まだ会社を退職していないため、実際に退職金を受け取っているわけではありません。
そのため、退職金を受け取ってその一部を破産管財人へ引き渡すという方法は取れません。
実務上は、破産手続開始後に、退職金評価額の8分の1に相当する金額を給与などから積み立て、管財人へ納付していくことが一般的です。
中退共(中小企業退職金共済)の退職金はどうなる?
退職金の中には、自己破産をしても管財人へ引き継ぐ必要がないものがあります。
代表例が「中小企業退職金共済(中退共)」です。
中退共による退職金請求権は、中小企業退職金共済法20条によって差押えが禁止されています。
そのため、自己破産においても、中退共の退職金は原則として全額を手元に残すことができます。
小規模企業共済も全額保護される
個人事業主や会社役員などが加入する小規模企業共済についても、法律によって差押えが禁止されています(小規模企業共済法15条)。
そのため、小規模企業共済の共済金についても、中退共と同様に、原則として全額を破産管財人へ引き継ぐ必要はありません。
確定拠出年金(DC)はどう扱われる?
近年では、退職金制度の全部または一部を、退職一時金ではなく「確定拠出年金(DC)」として運用している会社も増えています。
確定拠出年金は年金制度の一種であり、年金受給権は法律上差押えが禁止されています。
そのため、確定拠出年金として積み立てられている部分については、原則として自己破産をしても管財人へ引き継ぐ必要がなく、全額「自由財産」として保護されることになります。
退職金に関する事例
実際の事例については、以下のページもあわせてご覧ください。
まとめ
自己破産における退職金の取扱いは、退職金制度の種類や退職時期によって異なります。
• 退職が近くない場合 ⇒ 退職金見込額の8分の1が管財人に引き継ぐべき財産となる
• 退職が近い場合 ⇒ 4分の1が管財人に引き継ぐべき財産となる
• すでに受け取った退職金 ⇒ 原則として全額が管財人に引き継ぐべき財産となる
• 中退共や小規模企業共済 ⇒ 原則として全額保護される
• 確定拠出年金(DC)部分 ⇒ 原則として全額保護される
退職金の評価方法や必要な資料はケースによって異なります。
自己破産を検討している方は、早めに弁護士へご相談ください。