自己破産すると生命保険は解約しなければならない?弁護士が解説
「自己破産をすると生命保険は必ず解約しなければならないのでしょうか?」
このようなご質問をいただくことがあります。
結論からいうと、すべての生命保険を解約しなければならないわけではありません。解約が必要かどうかは、保険の種類や解約返戻金の有無・金額によって異なります。
また、運用基準は裁判所によって多少異なります。
本記事では、福岡地方裁判所本庁(福岡市中央区六本松所在)の運用基準を前提として解説します。
《目次》
1. 自己破産で保険を解約する理由
2. 掛け捨て型の生命保険
3. 医療保険
4. 貯蓄型(養老型など)の生命保険
5. 自動車保険・火災保険
6. 福岡地方裁判所では、いくら以上の解約返戻金で保険の解約が必要?
7. 満期保険金を受け取っていた場合
8. 契約者貸付を利用している場合
9. 給与天引きの団体保険も調査対象
10. 自分が保険金受取人になっている場合
11. どうしても保険を維持したい場合
12. 自己破産の申立てで必要となる保険関係の資料
自己破産で保険を解約する理由
自己破産で生命保険を解約することがあるのは、解約返戻金を債権者への配当に充てるためです。
自己破産では、債務者が所有する一定の財産を換価し、債権者へ公平に配当することになります。生命保険に解約返戻金がある場合、この解約返戻金は財産として扱われるため、保険を解約して現金化する必要が生じることがあります。
一方で、自己破産は生命保険契約そのものを禁止する制度ではありません。 解約返戻金が財産として評価される場合に限り、解約が問題となります。
掛け捨て型の生命保険
掛け捨て型の生命保険とは、死亡や入院、手術などの保険事故が発生した場合に保険金が支払われますが、満期になっても満期保険金が支払われないタイプの保険です。
このような保険には、通常、解約返戻金がありません。
そのため、解約しても破産管財人が配当のための財産を確保できないことから、一般的には解約の対象にはなりません。
もっとも、商品によっては一定の解約返戻金が発生する場合もあります。そのため、自己破産を申し立てる際には、保険会社から解約返戻金証明書を取得し、解約返戻金の有無を確認することが重要です。
医療保険
医療保険は、生命保険・損害保険とは異なる「第三分野の保険」と呼ばれ、入院や手術などの際に給付金が支払われる保険です。
医療保険についても、多くの場合は解約返戻金がありません。
ただし、すべての商品に解約返戻金がないとは限りませんので、自己破産を申し立てる際には、生命保険会社から解約返戻金証明書を取得して確認することをおすすめします。
貯蓄型(養老型など)の生命保険
貯蓄型の生命保険(養老保険など)は、死亡や入院などの保険事故だけでなく、契約者が健康なまま満期を迎えた場合にも、満期保険金や年金などが支払われる保険です。
このような保険には、通常、解約返戻金があります。そのため、自己破産では解約が必要になる場合があります。
ただし、必ず解約しなければならないわけではなく、解約返戻金の金額によって判断されます。
自動車保険・火災保険
自動車保険や火災保険は生命保険ではないため、通常は貯蓄性がありません。
毎月保険料を支払う契約であれば、解約しても返金はありません。
一方で、保険料を1年分や数年分まとめて前払いしている場合には、解約すると未経過期間に対応する保険料が返還されることがあります。
そのため、このような場合は実質的な解約返戻金があることになります。
もっとも、自動車保険や火災保険を解約すると、交通事故や火災などの際に補償を受けられなくなるため、実務上は、解約返戻金相当額を破産管財人へ支払い、保険契約を維持する方法が取られることも少なくありません。
福岡地方裁判所では、いくら以上の解約返戻金で保険の解約が必要?
生命保険を解約するかどうかの基準は裁判所によって異なります。
福岡地方裁判所本庁では、すべての保険の解約返戻金の合計額が20万円以上の場合、解約返戻金のある保険については、原則として解約が必要とされています。
一方、解約返戻金がまったくない保険については、解約する必要はありません。
なお、解約権は判例上、破産管財人に認められているため、実際には破産管財人が解約手続きを行うのが通常です。
満期保険金を受け取っていた場合
自己破産の申立て前に保険が満期となり、保険金を受け取っていた場合には、その保険金は原則として申立てを依頼した弁護士へ申告し、引き渡す必要があります。
弁護士は原則としてその金銭を破産管財人へ引き継ぎますが、裁判所の運用上、申立代理人弁護士の費用に充てることが認められる場合があります。
また、弁護士へ依頼する前に保険金を受け取り、すでに使っていた場合には、何に使用したのかを説明する必要があります。
福岡地方裁判所本庁では、原則として、過去1年間に10万円以上の保険金を受け取っていた場合は報告対象となります。
もっとも、これはあくまで目安です。例えば100万円程度の保険金を受け取っていたような場合には、1年以上前の受領であっても、状況によっては報告した方が適切な場合があります。
契約者貸付を利用している場合
貯蓄型の生命保険には「契約者貸付制度」が設けられていることがあります。
これは、解約返戻金を担保として保険会社からお金を借りる制度です。
もっとも、自己破産では、この貸付金は実質的に解約返戻金という財産を利用したものと評価されます。
そのため、契約者貸付を利用していた場合には「借りたお金を何に使ったのか?」つまり「解約返戻金という財産をどのように処分したのか?」について説明を求められることがあります。
給与天引きの団体保険も調査対象
生命保険の中には、自分が保険会社と直接契約するものだけではなく、勤務先が契約者となり、従業員が被保険者となる団体保険があります。
自己破産では給与明細を提出する必要がありますが、給与明細に団体生命保険の保険料控除が記載されている場合には、福岡地方裁判所本庁では、団体保険に関する資料の提出や報告を求められることがあります。
団体保険は、個人契約の生命保険と比べて、保険証券や解約返戻金証明書を取得しにくい場合があります。
そのため、実務上は「解約返戻金はありません」と記載された団体保険のパンフレットや約款などを提出するケースも少なくありません。
自分が保険金受取人になっている場合
自分が契約者ではなくても、自分が保険金受取人になっている場合には注意が必要です。
最高裁判所の判例では、破産手続開始前に締結された保険契約について、破産手続中に被保険者が死亡し、自分が保険金を受け取った場合には、その保険金は破産財団に組み入れられ、債権者への配当に充てられるとされています。
契約者ではないため、自分が保険金受取人になっていることに気付いていないケースもあります。
当事務所でも、福岡地方裁判所へ申し立てた案件において、ご依頼者が知らないうちに親族から保険金受取人に指定されており、破産手続開始後に親族が亡くなられた結果、受け取った保険金を破産管財人へ引き渡す必要が生じた事例がありました。
どうしても保険を維持したい場合
生命保険の中には、解約すると生活への影響が大きいものがあります。
例えば、以下のような場合です。
• 現在病気の治療中で、入院給付金や手術給付金などを受給している
• 将来も保険給付を受ける可能性が高く、一度解約すると同じ内容の保険へ再加入することが難しい
このような場合には、保険を維持する必要性を裁判所へ説明し、自由財産拡張の申立てや上申を行うことで、保険の継続が認められることがあります。
また、解約返戻金が比較的少額であれば、解約返戻金相当額を破産管財人へ支払うことで保険契約の維持が認められる場合もあります。
自己破産の申立てで必要となる保険関係の資料
生命保険等に加入している場合には、一般的に次の資料を提出します。
• 保険証券(電子契約の場合は付保証明書などで足りる場合があります)
• 申立て時点における解約返戻金証明書(保険会社へ依頼すれば発行してもらえます)
解約返戻金の有無や金額は、自己破産手続において重要な判断材料となりますので、早めに保険会社へ発行を依頼しておくと手続が円滑に進みます。